2026年3月12日、本田技研工業(ホンダ)は衝撃的な業績修正を発表した。2026年3月期の連結最終損益が最大6900億円の赤字に転落する見通しで、これは1957年の上場以来初めてのことだ。従来予想の3000億円黒字から一転、EV(電気自動車)事業の見直しに伴う巨額損失が主因となっている。北米市場でのEV需要急減速と政策変化が引き金となり、同社は「Honda 0」シリーズを含む3車種の開発・発売を中止。総損失は今期と今後数年で最大2兆5000億円に達する可能性がある。
このニュースは自動車業界全体に波紋を広げている。EVシフトを積極的に進めてきたホンダが、なぜここまで苦境に陥ったのか。背景、影響、今後の展望を詳しく解説する。

EV市場の急変 — 北米と中国の二重苦
ホンダのEV事業赤字の根本原因は、グローバルEV市場の想定外の減速にある。特に北米では、トランプ政権の政策転換が決定的だった。
バイデン前政権下で推進されたEV購入補助金や厳格な排ガス規制が、2025年以降に大きく後退。2月には自動車排ガス規制の廃止方針が示され、EV需要が急速に冷え込んだ。ホンダは北米でGMのUltiumプラットフォームを活用したEVモデルを複数投入予定だったが、販売見込みが立たなくなった。
三部敏宏社長はオンライン記者会見で、「事業環境は想定をはるかに上回るスピードで変化した。このまま生産・販売を進めるとさらに損失が拡大する」と断腸の思いを語った。開発中止対象は「Honda 0 SUV」「Honda 0 Saloon」「Acura RSX」の3車種。これらに伴う減損損失、設備除却損、追加支出が今期の営業費用として8200億〜1兆1200億円、持分法投資損失として1100億〜1500億円を計上する見込みだ。
中国市場も厳しい。中国ではBYDやテスラなど現地メーカーが価格競争と先進自動運転技術で優位に立ち、ホンダのシェアが圧迫されている。EV投資の見直しで中国関連投資の減損も発生する可能性が高い。
これらの市場環境変化が重なり、ホンダのEV関連損失は今期だけで数千億円規模に膨らんだ。通期営業損益も従来5500億円黒字から2700億〜5700億円赤字へ下方修正。売上高予想の21兆1000億円は据え置いたものの、四輪事業の収益性が急激に悪化した。
ホンダのEV戦略変遷 — 野心的目標から現実路線へ
ホンダは2010年代後半からEVシフトを加速させた。2021年には「2040年までに新車販売の100%をEVとFCV(燃料電池車)にする」と大胆宣言。F1撤退の資金をEV開発に振り向け、GMとの提携で北米向けモデルを急ピッチで準備した。
しかし、2025年頃から兆候が見え始めた。Prologue(北米向けEV)の販売が低迷し、2025年末には86%減の大幅落ち込みを記録。グローバルEV販売も四半期で1.5万台程度に低迷した。2025年度のEV事業単独損失はすでに約4480億円(約4.48 billionドル)と試算され、四輪事業全体が赤字転落した。
2026年3月期の修正は、この蓄積された損失の「清算」と位置づけられる。総損失2.5兆円のうち、キャッシュアウトを伴うものは最大1.7兆円。残りは会計上の減損処理が中心だ。三部社長は「現実を正面から受け止める」と強調し、2040年100%電動化目標を「現実的に困難」と認め、見直しを表明した。
業界全体への影響 — EVシフトの「冬の時代」到来か
ホンダの苦境は、トヨタや日産など日本勢だけでなく、フォードやGMなどグローバル大手にも共通する課題を露呈した。EV需要の減速は一過性ではなく、構造的なものだ。バッテリーコストの高止まり、充電インフラの遅れ、消費者側の「航続距離不安」や価格感度が重なり、ハイブリッド車(HV)への回帰が顕著となっている。
北米ではHV人気が再燃。中国では価格競争が激化し、低価格EVが主流だ。ホンダは今後、北米でHV開発を強化する方針を明確にした。GM提携のUltiumプラットフォーム活用は継続する可能性が高いが、純粋BEV(バッテリーEV)中心からマルチパスウェイ(HV+PHEV+BEV+FCV)へシフトする。
三部社長らは責任を取る形で、2027年3月期の月額報酬30%(3カ月分)を自主返上。業績連動報酬も不支給とする。取引先への影響も最小限に抑えるため、個別対応を約束した。
今後のホンダ — 巻き返しの鍵はHV強化とコスト構造改革
ホンダの強みは、二輪事業の安定収益と航空機・パワープロダクツの多角化だ。四輪の赤字をこれらでカバーしつつ、抜本改革を進める必要がある。
短期策として、北米HVラインナップの拡充。中国では現地パートナーとの協業深化。長期では、ソフトウェア定義車両(SDV)対応のプラットフォーム開発や、バッテリーコスト低減に向けた投資継続が求められる。
5月には四輪中長期戦略の詳細を発表予定。社長交代のタイミングも注目されるが、三部体制下での「企業変革責任者」としての取り組みが鍵だ。
まとめ — 電動化の「現実直視」が業界の新常識に
ホンダのEV赤字は、単なる一企業の失敗ではない。EVシフトの過熱期待が現実と乖離した結果だ。政策変動、競争激化、消費者行動の変化を正確に読み、柔軟に戦略を修正する重要性が改めて浮き彫りになった。
今、自動車業界は「EV一辺倒」から「最適な電動化パス」への転換期にある。ホンダの決断が、業界全体の新たな指針となるかもしれない。読者の皆さんは、この転換点をどう見るだろうか。電動化の未来は、まだ不透明だが、ホンダの「現実主義」が新たな突破口を開く可能性を秘めている。